■ご近所路上絵画展 |
撮影は川上信也さんに依頼。天気は快晴。自然光で撮影したいということだったのでやや良すぎるが、雨でなくてよかった。
約束の10時、徐行しつつ植木さん宅を確認しようとする前に、道の両側、色鮮やかな絵の整列が目に飛び込んできた。私たちがやって来る前に絵を出しておこうとされたようだ。
植木さん宅は元酒屋で、道路に面した軒下十数メートルは勿論、5メートル位の道を隔てた向かいは旧家らしく、その立派な門の脇から瓦の載った塀に沿ってズラリと絵が立て掛けられている。総数20点程、ほとんどが100号サイズ。まるで絵画虫干しの図。
当然、道行く近所・町内の人が不思議そうに立ち止まる。「これ、買ってもいいんですか?」と言う人もいたようだ。車の往来が少ないので、通りがかった車の人も徐行しながら眺めている。中には一旦停車して観覧する人も。
のどかな田舎風景の中、何故か中空に寝姿で浮かんでいる赤ん坊(「光は雲のように、空のように」)、赤い顔をしたおじさん──かつての酒屋の客らしい──がポケットに手を入れ所在無げに突っ立っている姿(「さけくらい」)、大事な無くし物を捜し疲れた風情の全裸女性(「人生思い通りにならない」)……どの絵にも、植木さんの(市井の人々へ向ける)視線と人生観の優しさ・温かさが、そして──だからこそか──自分の目にした「現実」を描こうとして何故か微妙によじれてしまう感覚が表れている。
「描くことは苦しい」と植木さんは言う。でも、キャンバスに向かってしまう。
そうして描かれた絵は、無造作に、かつての倉庫に仕舞われている。25年前に私が一目惚れし、「持って帰っていいよ」と言われたもののその大きさにためらってしまった「父ちゃんの頭はパチンコ」(「刊行予定」に掲示)とも今回再会したが、ゴキブリやネズミの運動場跡地の様相となっていた(ああ、残念!)。
参考撮影も含め全体で40点程になったが、川上さんの撮影はいつものように自然体でてきぱきとして、実に小気味がよかった。
これほどシュールで豪勢な「絵画展」には、もう出会えないだろう。お陰さまで良い誕生日となった。
植木好正さんの『人間が好き』、間違いなく素敵な画集になるだろう。


[撮影=yuka]