■釜山人の胃袋 |
この10年位、日本のどこかの温泉に行くよりはと、結局年2回程度、釜山行きを続けている。何が面白いかと言うと、私の場合まずは「食」。特に温かいつゆに入っているものが好物なので鍋物やスープ(韓国流に言えば湯=タン)、とりわけサンゲタンが「世の中で一番好きな食べ物」と言ってはばからない。次に街歩き。ともかくウロウロして、活気のある街や人々を眺めるのが楽しい。加えて、デパ地下や大型スーパーマーケットでの食材や焼酎などの買い物も重要なファクターだ。
ひとことで言うなら、釜山に行くと血が騒ぐ。
半年ぶりの南浦洞(ナムポドン)は数年がかりのメーン通り整備が終わり、毎夜のイルミネーションがクリスマスのようだ。釜山一の繁華街も流石にこのところ人通りが少々落ち込んできたとかで、その活性化事業の一環らしい。

今回の旅の初体験モノは、釜山東郊、日本では珍しい海岸そばに建つ古刹・海東龍宮寺(ヘドンヨングンサ)。元は1376年建立とか。確かに、建物のすぐ足下まで波が押し寄せている。ふと、寺の一郭に「解憂所」という看板を見かけ、まさかお寺でお祓い?……と思いきや、そばに立つ幟でトイレと知れた。言い得て実に妙。ここで用を足すと、他の憂さもいくらか晴れそうな気がした。この国で漢字による遊びめいた看板を見るのも珍しい。


さて、食で言えば今回の目玉は、機張(キジャン)の蟹。龍宮寺からタクシーで15分程。ここは二度目だが、前回心残りだったタラバガニを試すことにした。蟹料理屋が十数軒、箱形の生け簀にタラバ、アブラ、ズワイの長い脚が犇めいている光景は壮観だ。活きの良さそうな店で体重2キロ強のタラバを選ぶ。値切った結果、日本円で6000円程に。ズワイほど潮の香はないが、身離れがいいのが嬉しい。身を食べ終わった後には、甲羅を器にして、蟹味噌を混ぜ込んだ焼き飯が出てくる。
なお、後で空港まで送ってくれた現地ガイドによると、最近釜山地域で供される蟹もロシア産とのこと。

今回、機張から鉄道を使って街中に戻る途中、期せずしてその魅力を再認識させられたのが釜田市場(ブジョンシジャン)。一歩足を踏み入れると、市場内縦横にクロスして走る道々は、海の物から畑・山の物まで、ありとあらゆる食材、それに、ちょっと買い物にといった風情の現地の人々で溢れかえっている。覗き見しながら歩いて回るだけで2時間はかかるのではないか(釜田市場だけのガイド書ができそうだ。既にあるのだろうか?)。ともかくもこの賑わいは凄い。
人口400万人。町じゅう至る所で営業中らしき、ハングルが読めぬ者には謎めいた飲食店の数々、売れ残った物は一体どうするのかと要らぬ心配をしたくなるほどの、大半は小商いながら全体として大量の食材市場の品々……何度訪れても釜山人の食への欲望には圧倒されるが、釜田市場こそはその一大聖地ではないか。釜山でまず見るべき場所は、チャガルチ市場でも国際市場でも釜山タワーでも、勿論ロッテ・デパートでもない。
