■花乱社・第1冊目の装丁 |
川上さんも立ち合った。彼の写真集の読者と初めて会った時など「もっと年配の人かと思った」と言われることが多いらしくて、今回、川上さんは「若々しい写真集」というイメージにこだわってきた。
4種類のデザイン案を見るなり、川上さんは「ホーッ」と。そして次第に、ニコニコ顔になっていった。
4案いずれも、使用写真だけでなく、構図も使用フォントも、それぞれに巻かれている帯の天地幅やレイアウト(キャッチ・コピーはダミー)すら異なっている。いずれにも時間をかけ思案を重ねたことが見て取れる。川上さんならずとも感嘆するしかなかった。
最終的に川上さんと私の意見が合ったのが、これ(表のみ。ここでは見せないが裏も格好いい)。写真では分かりにくいが、周囲には6ミリの紙色部分が出てくる設計だ。

青と緑が支配する空間の中、1両きりで走ってくるのは平成筑豊鉄道の電車。この写真は、一昨年、福岡県立育徳館(旧豊津)高等学校250年記念誌の制作中、川上さんに撮影を依頼した時の帰り道(みやこ町犀川)で写されたものだ。
小さな踏切を横断した後、川上さんは「電車が来るような気がするので、撮影して来ていいですか?」と言うやいなや車を停め、線路沿いを去っていった。海水浴に来て、昼食のおにぎりさえもどかしくて口に咥えながら海に向かって走っていく男児のように。
そのように待ち望む者に、向こうから王子様が白い馬車で……ではなく、何やらハミングしながら黄色い箱電車がやって来る。
*
私も、この装丁を見て安心し、大袈裟に思われるかも知れないが、密やかな勇気すら湧いてきた。
一冊の本を生み出すために、出逢い集まった人たちが、自由に(タイトル中の「福岡」は、デザイン上不格好とかで勝手に「フクオカ」と直された)、大胆に(どちらが天地か分からない本だってあっていいのだ)、各々のやるべきことや仕事を全うすること。その集合と協同、そして競い合いからきっと、1+1=2、1+1+1=3という以上の何かが立ち上がってくる。私はそれを見届けたいし、私自身もなお「進化」したい。
「これで写真集の姿がしっかり見えてきた」と、川上さんは帰る時までニコニコ顔だった。