■写真集の印刷立ち合い |
こうした状況は勿論、カラー(4色)印刷だからこそで、原則的には4原色──黄(イエロー、Y)・赤(マゼンタ、M)・青(シアン、C)・黒(KまたはBL)の4版でカラー原稿(写真や絵画など)を「再現」することになる。
印刷物をルーペなどで覗いてもらうと分かるが、原理的にカラー印刷物は、何かの形であれ色合いであれ、画面にあるすべてのものを、上記YMCK4色それぞれの、細かいドッド(点)の大きさと分布密度で表現する。そうしたドッドの大きさや密集具合を見て、精度の劣る我々人間の眼は、いわば自分の見知った「画面・画像」として再構成する。
例えば、ヒマワリの花であっても、単にイエローインクのみで表現しているわけではなく(直射日光の当たっているヒマワリと夕暮れの光の中でのそれとは、全く色が異なる)、シアンインクが混ざることで「青ざめた黄色」になるし、マゼンタが混ざることで山吹色やオレンジ色に近くなる。青空の「青」と言っても、人により、季節により、一日の中の時間により、私たちが受け取る色合いは微妙に異なる。
だから、印刷立ち合いとは、4原色で構成されている印刷画面を、その段階で調整可能な範囲の中で、印刷表現として追求する最後の機会なのである。文字中心の印刷物とは異なり、写真集や画集においてはこの段階がとても肝心だし、神経を使う。
こうした点検に付き合わされるのは、印刷現場においては(印刷機を一日何万回転させるか、といった)経済効率に合わないこともあり、東京の印刷・出版の世界では「印刷立ち合い」はよほどでないと行われない、とこれまで聞いてきた。
なお、印刷会社は、上記2冊とも秀巧社。とても丁寧で手堅く、会社全体で仕事のクオリティを高めようという意識が高い。
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さて、3・4日に立ち合ったのは、川上信也さんの『フクオカ・ロード・ピクチャーズ──道のむこうの旅空へ』(4月1日発売)、10・11日に立ち合ったのは、高見剛さんの『天地聖彩(せいさい)──湯布院・九重・阿蘇』(4月10日発売)の印刷だ。川上さんの写真集は近々改めて記述したい。
高見剛さんは由布市在住の写真家で、これまで私は、『由布院花紀行』(文章:高見乾司氏、1997年)、『風の記憶──日出生台・沖縄 フォト・ドキュメント96〜97』(編集代表、1998年)を手掛けさせていただいた。
今回の写真集は、20年間撮り続けた湯布院に、九重そして阿蘇──この山塊のつながりを「中九州火山地帯」とも言うらしい──の風景を加えたものだ。勿論、樹あり山あり花あり沢あり、冬場の厳しい光景もあるが、実は、高見さんは「草原」が好きらしい。「九重・阿蘇を撮ったものは多いが、この地域でまず眼に入るのは何と言っても草原であり、それをきちっと捉えた写真集はほとんどない」と。
そう言われて私も、くじゅうに行った時──なかなか好天の機会は少ないが──に、何を見て一番解放感に浸れるかというと、それはあの草原の色合いや輝き、のどかなうねりや広がりであったことを思い起こした。
『天地聖彩』掲載分から幾つか掲げたい。

オキナグサ(湯布院町)

由布岳南山麓

天狗ケ城
[3月15日記]