■“田舎のシュール”てんこ盛りの画集 |
ご自宅前に大半100号の絵をズラリと立て掛けて撮影したのが昨年11月下旬(→「ご近所路上絵画展」)、6カ月半経ったことになる。元々の予定が、今年8月に福岡市の画廊(天神・ギャラリーおいし、8月16〜21日)で開かれる個展に間に合わせるというものだったので、じっくりと進めることができた。
植木さんとは、葦書房時代の1985年に青春期を描いた小説『京美荘物語』を出版したことが始まり。その後は、時候の挨拶文を交わし個展の案内状などをいただくほか、偶然街ででっくわしたりするぐらいだったが、最初の出会いが強烈だったこともあり、お会いするだけで何故か嬉しくて、ブランクも全く気にならず、私は勝手に年来の友人だと思ってきた。ここ数年は、6月に中津市で開かれる「竜一忌」で毎回顔を合わせてきた。
今回、校正などで遣り取りを重ねる中、その人柄が(絵に劣らず)底抜けに温かくてペーソスを湛えているだけでなく、妬ましいほどのチャレンジ精神と目指したことを間違いなく実現させてしまう行動力を持っている人であることを、改めて確認させられた。
いつも何かに挑んでいないと、生きている気がしない人だ(そういう人は概ねせっかちだが、それでないと物事は前に進まない)。
今回の画集に収録したエッセイの中から拾い出すだけでも、そのチャレンジの一端に触れることができる。
まず、1993年(43歳か)に今の妻・直枝さんとバツイチ同士、それも互いに4人の子供を連れ添って結婚、というだけでも既に常人の域を超えている。
次に、1998年から始めた「1万人の似顔絵描き」。日々出会った人たちの似顔絵を描き、絵自体は相手に渡すが、絵を持った写真を撮らせてもらう。これが、5月現在で6964人という。

他にも、たまたま旅先で見かけた地方新聞で「嫁ぐ娘にささげる父の歌」募集を知り、一気に書き上げた詩が全国10点の中に入選、プロの作曲家の指導を受けてCD録音となる……(その後の展開は本で確認してほしい)。その詩のタイトルも書いておけば、「一度だけじゃないかも結婚は」。
そして、本には出ていない話だが、今年1月には、還暦記念ということで、なんとフル・マラソンに出場して完走(タイムも聞いたがここでは書かない)。確か10年前の50歳記念には、鹿児島・錦江湾内遠泳に親娘で参加した、と聞いた。
そしてもう一つ、植木さんの知人の同僚の米国人が校正紙の絵を見て、「この絵は凄い、アメリカ人、それも少し地方(=田舎)の人たちにはきっと喜ばれる」と言ったとかで、掲載図版には全て英文タイトルを付すことにし、現在、アリゾナ州ツーソンでの個展の話が本当に進んでいるようだ。
今回の画集も、同じく還暦を記念しての発起ということ。
「大真面目だからこそ、どこか可笑しく、愛情たっぷりだからこそ、どこか毒がある。」
というキャッチ・コピーを私は帯に掲げた。
植木さんから叱られるか嫌がられるのではないかとも思ったが、ご本人だけでなく、直枝さんにも「夫の絵のこと(「夫のこと」だったか?)をよく言い当てている」とたいそう喜んでもらった。
どこか懐かしくて、不思議な人と街──植木好正画における“田舎のシュール”(これまた嫌がられそうな)を、画集(A4判変型・並製本、64ページ、定価2625円)現物で楽しんでもらえたら嬉しい。
なお、一般発売は6月28日としているが、6月18日の「竜一忌」(中津文化会館、今回のテーマは「『記憶の闇』と『狼煙を見よ』」)には間に合い、植木さん自身が画集を持参されることになっている。

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収録エッセイから一つ転載する。これは正直な気持ちを綴った一篇。
絵を描くこと
何故絵を描くのか、と聞かれても困ってしまう。強いて言えば、絵を描くことは、白いキャンバスを立て、何を描くか考え、それからデッサンして、ああでもない、こうでもないと、描いたり消したりして少しずつ描いていくと、ある日突然、完成する。
一から全て自分でやり遂げる、そこが良い。ほとんどが人物だが、日常生活に出てくる身近な人ばかりだ。
昔、酒屋をしていた頃、毎日角打ちに寄っていた繁ちゃん、週に一、二度はどろどろになって軽トラで送り届け、家の前に放り出してきた。
百二歳で死ぬまで頑固を貫いたマサノさん。段ボールが欲しいと言うので持って行ったら、「この泥棒!! 泥棒!!」と怒鳴られた。
炭坑の長屋で独り暮らしをしていた政時さん、いい男でちょっとヤクザな感じだったが、ある時、四十代の女の人が訪ねてきた。四十年前に古里に置いてきた娘だった。さすがに落ち込んで、その後何故か七面鳥を飼い始めた。
死んだ人、生きている人、今となってはみな懐かしい人たちだ。
絵を描くことは楽しいとは言えず、むしろ苦しい。でも落ち込んだりイライラした時、二時間程集中して筆を執ると、気持ちが落ち着くことは間違いない。筆も絵の具も選ばない、有る物を使う。
時々妻が、辛辣な批評をする。図星だと怒りが込み上げてくる。彼女が題を付けることもある。これは楽しい。
→花乱社HP