■吉本隆明が逝った |
奥手だった私が、上京し大学に入ってすぐに遭遇したのが、「マルクシズム」と同時に「吉本隆明」だった。
マルクシズムはヨーロッパ文明全体を問い直す巨大な知の体系だったが、マルクス=エンゲルスの著作について私は初期のものにしか関心を持てなかった。
「吉本隆明」は違った。戦前そして戦後のこの国を問い質す現在進行形の思想であり、一度出合うと、“通過儀礼”としてだけでは済まされなくなった。
今振り向けば、私の書棚で一番場所を占めているのは吉本隆明の本。そして結局、今でも彼について何らかまとまったことを言うのは困難だが、ものの考え方の根本的な骨格を得てきたのも──彼と対峙することで自らを構築した先輩たちから学んだことを含めて──吉本からだったように思う。
「吉本教」でも「隠れ吉本信者」でもないが、今晩、どれほどの人たちが彼のことを追懐し、どれほどの物書きと言われる人たちが追悼メッセージを書いていることか、と思う。