■持つべきものは、本好き・酒好きの先達哉 |
絵と文学がお好きなお二人、話題は3月新刊の『移ろいの象形──江本智美画集』に始まり、選書続刊予定の『葉山嘉樹・真実を語る文学──講演「葉山嘉樹と現代」・評論・エッセイ・回想記』(楜沢健他著、三人の会編)へ、さらに葉山と同じ豊津町(現・京都郡みやこ町)出身の鶴田知也(『コシャマイン記』で第3回芥川賞受賞)に移り、「あまり知られていないが鶴田は絵も書いていて、それがいいのだ」(確かに、鶴田には『わが植物画帖』という著作がある)といった流れで進んだ。
お二人とも現在77歳、まさに盟友と言うべき間柄で、その仲の良さは羨ましいほどだ。お一人が「喜寿とか言われても、何も嬉しいことなんぞないけどね」と呟かれたのが気になったが、どちらも今でも「本好き少年」(なんて比喩は既に時代錯誤かも知れないが、「青年」より戻りすぎている感があるので)そのままであり、作家名・作品名が次々に出てきて話が横にずれそれでも繋がっていくことに感心、出版を仕事にしていながら「なかなか本を読む時間が取れない」などと愚痴ってしまいそうになる昨今の我が身を振り返ってしまった。
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帰宅して戴き物の包みを開くと、外函に巻かれた熨斗に自筆でそれぞれ「選書萬冊/一路平安」の賀辞。「萬冊」とは途方もないが、こうした場合の誇大さは中国人でなくてもなんだか愉快になる。
酒は会津若松市・末廣酒造の「末廣」。裏のラベルには「會津 伝承山廃純米──口に入れると、酸味と甘味が入り混じり、かすかに苦味が感じられます」とある。
全くその通りの味だった。私は普段、芋焼酎お湯割り派(これは必ず、先に水で割ってレンジで温めること!)で、あまり日本酒には通じていないのだが(「本当に美味い酒」というのが、日本酒にこそ存在することぐらいは分かる)、味の複雑さ=コクは、これまで呑んだ日本酒の中でもベスト3に入るのではないかと思った。
お目出度いことなので「末廣」という名を選んだと言われたが、福島県産というところにさり気ない気配りを感じるし、貰っただけの私自身もなにほどかの役回りを図らずも頂戴したようで、嬉しさのままにほぼ「一路酩酊」の夜となったのは言うまでもない。