■13回目のバイク車検、もしくは諦めない気持ち |
実は半年程前から、走っている時に前輪ディスク・ブレーキがシャリシャリという音を立て始めていた。そのうちそれが走行中の常態となり、時として歩行者から振り向かれるほどの音量にもなった。ブレーキをかけた時だけ音は消える。
当然これはブレーキ・パッドの摩耗が原因で、いわばディスクを削りながら走っているようなものか。いつか、ブレーキが全く効かなくなって何かに追突してしまうか、ディスクが破壊されて突然バイクからはじき飛ばされるか……という想像が頭によぎることしばしばだった。
確か車検ももうすぐだし、あまり手入れをしていないこともあって全体が少々惨めな姿ともなっていたので、これはそろそろ別離の時かなと思い始めていたが、ともかくバイク屋に持って行こうと、ザッと磨いて大手門にある「ホンダウイング角地」に持ち込んだ。ここは、半年前にバッテリー交換をしてもらった店だ(「23年目のイントルーダー750」)。
前回のことでここの店主がどんな対応をしてくれるのかは分かっていた。話している内、ブレーキ・パッド交換だけでなく、タイヤもまだ使えるようだしせめてもう2年は……と、結局そのまま車検まで頼むことにした。
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車検を終えたバイクを見て、久し振りに驚いた。
この店主、私がとっくに諦めていたマフラーのしつこい錆を、可能な限り落としてくれていたのだ。他にも、持ち込む前と光り方が違う箇所がある。そのことについて私が気づくまで、店主は自ら言うこともなかった。無意識のようだが、私と話しながらも、手に持ったウエスであちこち撫でるように拭いている。
店は親の代から二代目とのこと。寡黙だが、仕事とバイクに愛情を持っていることがじんわりと伝わってくる。
私は、愛車に対する自分のつれなさを恥じた。24年を経ようが、文字通り手塩に掛けるがごとく1カ所1カ所、きちんと触って磨いてやれば、まだ光る。ダメな部品は取り替えさえすれば、まだ行ける。
いつかは錆や劣化や摩耗や部品入手困難にギブ・アップするだろうが、長年月を共にしてきた「機械」とどのように向かい合えばいいのか──そしてそれ以上の、諦めない気持ち──を、改めてその道の人に教えてもらった気がする。