■「ヤワな読者は、いらない!」──25年目の思想誌『飢餓陣営』 |
この号は「追悼総力特集:吉本隆明を新しい時代へ」、A5判328ページ、定価1300円。これだけの内容のものは、一般の商業雑誌ではできないだろう。表紙と目次を掲げさせていただく。



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初めて出会った時、佐藤氏は養護学校の教員をされていた。その頃既に同誌(当時の誌名は『樹が陣営』)を発行されていて、佐藤氏もインタビューや対談記事をまとめるだけでなくご自分の原稿も掲載されていたが、そのうち仕事を辞め文筆家になられた。
同誌発行趣旨を、佐藤氏は2001年時点の「樹が陣営HP」でこう書いている。
・さて『樹が陣営』といっても、多くの皆さんは、ご存じないことでしょう。
・じつは、知る人ぞ知る、思想・批評満載のミニコミ誌であります。北は北海道から、南は沖縄まで広く愛読者を持ち、知る人は、自分だけが知っている、という密かな歓びを感じつつ手にしている、とも伝え聞きます。
・一時間もあれば読み終え、読めば忘れられていく本に、1000円、1500円と値段がつけられ、大量に出回っている昨今です。「ヤワな読者は、いらない!」という殺し文句(捨てゼリフ?)を胸に、「ヤワ」ではない読者に向けて、現在とあいまみえる硬派のメッセージを発信し続けています。
・そしてもうひとつ、豪華執筆陣が居並ぶ当誌ですが、なんと皆さんノーギャラ。あの、丸山圭三郎さんにまでノーギャラで仕事をしていただいた、不届ききわまりない雑誌でもあります。しかしノーギャラとは言え、皆さん、決してはんぱな仕事はされておりません。くれぐれも、その熱気に圧倒されないように。
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その後、佐藤氏は精力的に著述に専念、これまで下記の著書がある。
【著書】
〈単著〉
02年7月 『精神科医を精神分析する』(洋泉社・新書y)
03年9月 『ハンディキャップ論』(洋泉社・新書y)
05年3月 『自閉症裁判』(洋泉社)
06年3月 『村上春樹の隣には三島由紀夫がいつもいる。』(PHP新書)
07年7月 『裁かれた罪 裁けなかった「こころ」』(岩波書店)
08年7月 『「自閉症」の子どもたちと考えてきたこと』(洋泉社)
08年11月 文庫版『自閉症裁判』(朝日文庫)
09年2月 『ルポ高齢者医療』(岩波新書)
09年5月 『心、無法審判』(台湾語訳『裁かれた罪 裁けなかった「こころ」』
〈共著・編著〉
00年3月 『中年男に恋はできるか』小浜逸郎(洋泉社・新書y)
01年4月 『「こころ」はどこで壊れるか』滝川一廣・聞き手編(洋泉社・新書y)
01年6月 『「弱者」という呪縛』小浜逸郎×櫻田淳(PHP研究所・司会構成)
03年2月 『「こころ」はだれが壊すのか』滝川一廣・聞き手編(洋泉社・新書y)
03年4月 『新しい時代のための吉本隆明の読み方』村瀬学・聞き手編(洋泉社)
04年1月 『哲学は何の役にたつのか』(西研・聞き手編(洋泉社・新書y)
04年10月 『刑法三九条は削除せよ! 是か非か』呉智英共編(洋泉社・新書y)
05年8月 『日本人はどこへゆく』岸田秀対談集(池田晶子他。青土社)
06年10月 『平成のタブー大全Ⅱ』(山本譲司他。宝島社文庫)
07年6月 『少年犯罪厳罰化 私はこう考える』(山本譲司共編著)
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確かに「ヤワ」な人ではない。
たとえ執筆者にノー・ギャラであれ(今でもだろうか?)、取り上げるテーマに一貫した筋を通し、独力で思想・批評誌を発行し続けて25年。
変節を恥じることもなく、どさくさ紛れに物事を進める手法が罷り通る昨今、このように一徹な「発信者=書き手・編集者」がいることはとても貴重だ。遙か及ばずながら、私も見習いたい。
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