■400年に及ぶ歴史物語──『肥後藩参百石 米良家』 |
本書は、サブタイトルにあるとおり、赤穂義士堀部弥兵衛(安兵衛父)の介錯人を先祖に持つ一族の系譜と事跡を追ったもの。熊本藩初代藩主の時代に仕官、その後、2代目重但(市右衛門)が江戸にて忠臣蔵事件に際会、その後も日本史上幾多の戦乱・事件に巻き込まれながらも血脈をつないできた米良家は、藩士時代は最大300石と中級武士の家柄だが、そのおよその足跡は熊本─江戸─小倉─北海道そしてシベリアまで、時代の流れとともに広範囲に及んでいる。
改めて抜粋系譜を掲げる。
・初祖吉兵衛:熊本藩初代藩主細川忠利に仕官
・初代元亀:300石を拝領、35年間奉公する
・2代重但(市右衛門):江戸にて赤穂義士堀部弥兵衛の介錯人を勤める
・8代実明:相模湾岸警備、そして小倉での二度の長州征討戦に従軍
・9代左七郎:西南戦争で熊本隊として西郷軍に合流し戦死
・10代亀雄:熊本の神風連の乱に参加し自刃
・11代四郎次:屯田兵に志願し、1889年に北海道へ移住
・12代繁実:ソ連軍に拘束され、シベリア抑留中に病死

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執筆は、米良家の末孫にあたる近藤健氏(札幌市在住)が主として歴史部分をまとめ、その根拠となる史料の解読及び時代考証を義士研究家でもある佐藤誠氏(東京都西多摩郡在住)が主に担当するという協同形態になっている。
100ページ近くを占める史料中には、熊本藩における米良家、米良家各代、忠臣蔵関係のものや、熊本県からの屯田兵入植者一覧、ソ連抑留中の記録(厚生労働省未公開)など興味深いものがあり、初めて活字化されたものもある。
資料蒐集や現地調査、執筆に8年をかけた本書は、まずは、九州・熊本を出自とし変転を経た後に北海道を居住の地とする一家系の話ではあるが、それぞれの人物がどのような時代に生きたのかが明らかにされる追跡過程に立ち会う時、「歴史」が生き生きと捉え返される想いを持つ。
それは何より、400年間の血筋をつなごうとする子孫の──類例のないほどの──情熱がもたらすものであり、こうした営為こそが「歴史」をさらに豊かにしていく基礎となるのではないかと考える。一家譜を超えた歴史書として広く世に問いたい。
九州・熊本から北海道へ──一つの家系の400年間にどれほどのドラマがあったことか、そしてそうした血のつながりの膨大な集積の中に一つ一つの命の営みがあることの生き生きとした証左として、どれほど世に迎え入れられることか──。