■天空と雪の国チベットを知る夏 |
会場は「モンゴルの城」(福岡市南区)。私は初めてだったが、知る人ぞ知るモンゴル料理店。ビル1階フロアーに大小幾つかのゲル(モンゴル高原に暮らす遊牧民の移動式住居)が設えてあり、ゲルの中は巨大な番傘を広げたように華やかだった。
オーセルさんは現在、チベットのラサに軟禁状態。大阪在住の現代中国文学者・劉燕子(リュウイェンズ)さんが、オーセルさんよりのメッセージを読み上げた後、国内亡命状態の中で“一人のメディア”として活動を続けるオーセルさんのこと、そしてチベットの現状を語った。
僧を中心とするチベット人がこれまで100人以上焼身自殺を遂げていること、古都ラサにおいてもチベット人が追いやられて既に町中心部の半数以上を漢人が占めていること、漢族出身の自分が何故チベット支援をするようになったかなど、そしてこうした“中華帝国”による文化的ジェノサイドに対して、微力かも知れないが、文学の力と人間の尊厳を信じたい、と。

私は劉さんの編訳になるオーセルさんの著書『チベットの秘密』(集広舎)の制作のお手伝いをさせていただいたが、劉さんとはこれが初対面だった。劉さんの日本語スピーチは熱のこもったもので、勇気と信念を持った方だということがよく分かった。スピーチには時折短い母国語が混じったが、私はこれほど中国語が美しいと思ったことはない。
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質疑応答の合間に主催者側より、壁に掲示されたチベット国旗が紹介された。この国旗案には日本人が関わっているという。そして、旗の周囲の黄色の縁取りは仏教の教えを象徴しているが、右手の一辺は仏教以外にもオープンであることを示していると。この国旗の掲揚自体が中華人民共和国では厳禁とのこと。

食事の間には、民族音楽研究演奏家・若林忠宏氏のシタールによる演奏。世界各地を廻り、3000にも及ぶ民俗楽器を蒐集している──持っていないのは幾つかしかない──と言う若林さん。その語りも楽しかったが、アジア各地の民族音楽が微妙に変奏されつつ織り込まれた即興演奏を聴いているうちに、まさにシルクロードを通して深く繋がっていることを感じて、アジア人の血が騒いだ。