■流浪する戦後日本──映画『るろうに剣心』 |
かつて幕末動乱期に「人斬り抜刀斎」として名を轟かせた男は、時移り明治に入って剣心(佐藤健)と名を改め、流浪人(るろうに)として弱き者たちを助けていた。
その正体を知る山県有朋やあこぎな豪商から仕えることを求められるが、「不殺の誓い」を立てた剣心は拒否。所持するのは、人を斬ることのできない逆刃刀(さかとうば。通常の刀とは刃と峰が逆向きに打たれている)。戦いはするが、刀を抜いても峰打ちとなり、相手を殺すことはない。
元新撰組隊員で今は山県側近となった斎藤一(江口洋介)には「己に向いた刃は、やがてお前を苦しめることになるぞ。綺麗事を言う前に、まずは自分の身を守ってみせろ」と挑まれ、何とか逃れる。
ラストでは、最強の敵・贋抜刀斎(吉川晃司)に剣心を慕う神谷薫(武井咲)を連れ去られ、激闘の末、薫を守るため「俺は今一度、人斬りに戻る」と宣言、相手の息の根を止めようと刃を逆向きにして振りかぶる。
その時、息も絶え絶えの薫が叫ぶ。
「やめて! 人斬りには戻らないで。あなたが殺してしまった人のために、あなたが今まで助けた人のために。……人を斬らなくても、誰か助けることができる。それが、あなたが、剣心が、目指した新しい世の中でしょ」
──元「人斬り抜刀斎」こと剣心、それに「人を斬れない・斬らない刀」が、何を含意しているかは瞭然だ。(逆刃刀ならぬ諸刃の剣として)日本国憲法と自衛隊を共に携えてきた「戦後日本」のことだ。
最早、「戦後日本」は打ち棄てられようとしている。私にはそう見える。「目指した新しい世の中」を見届けた上でのことだろうか。
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