■晩秋の札幌──やっぱり夕暮れ |
少し前のこと、幾らか仕事の絡みも含めて、たまたま札幌在住の知人が3人いることに思いが及び、この国の中でちょうど反対側の位置にある地への旅心が兆した。ならばと、人生の別れを告げるためでは勿論ないが、この際会いに行こうという気持ちになった。会いたい人とは会っておかねばならない。それも、今回は極寒時期ではないが、その土地らしい季節がいい。
[札幌駅前]


福岡より8度程温度が低いはずだが、それほどの冷え込みではない。やや寒々とした佇まいの、整然とした様子の街。とりあえず大通公園をぶらついていると、ちょうど「第33回 さっぽろホワイト・イルミネーション」の初日だったようで、200人程が集まって点灯式を待っていた。午後4時で、もうだいぶ暗い。
副市長他3人が挨拶に立ったが、「ここでしゃべるのか……」と、さすがに周囲の札幌市民からも小さなブーイングの声が聞こえた。福岡での真冬の身支度をしてきた私も冷えてきた頃、ようやくイルミネーション点灯。だが………札幌市民には悪いけど想像したほどの豪勢さではなかった。
[イルミネーション点灯直後の大通公園]

[さっぽろテレビ塔より見る大通公園]

札幌駅周辺は10年程前、JRタワーを含む一連の再開発施設が完成したとのことで、なかなか堂々たるもの。構内にはブティックや土産物屋などがひしめいている。それに、後で知ったことだが、通りを歩く人の数がそれほどでもないと思っていたら、地下街がえらく広い。人々は寒さを避けて地下を歩いているようだ。
[大丸と札幌駅、JRタワー]

ところで今回、飛行機が新千歳空港への着陸態勢を取る頃から気になっていたのは、(広く北海道と言っていいかどうか)個々の民家の敷地に塀や生け垣、それに庭木らしいものがあまり見当たらないことだった。有り体に言うと、家の周囲が殺風景だ。一瞬、隣地との境界はどうなっているのだろう、植木に関心を持つ人が少ないのかな、などと思ってしまった(これは後で、とにもかくにも雪下ろし・雪かき対策のためと知る)。
札幌市内に入ると、それはまさに碁盤目状に街区割りされた都市風景となり、九州、それもとりわけ都市開発に押されていかにも急拵えのごたごたと入り組んだ区画になっている福岡都市圏とは全く異なる風景だ。「南北は、大通を基準に北1条、北2条…、南1条、南2条……、東西は創成川を基準に東1丁目、東2丁目……、西1丁目、西2丁目……と順に区画されており、中心部では約130m間隔でこれらの数字の付いた通りがある」(ウィキペディア)。
私がその夕刻訪ねた家は「北○条西○丁目」だった。都市づくりとしては確かに合理的だが、私が思ってしまったのは、例えば普段行きつけでない○○デパートや○○病院に赴く場合、一体バスをどこで降りたらいいのかを愛想のない「北○条西○丁目」といった停留所名で覚えていられるのだろうか、ということだった。
まあ、そうしたことはすべて、元々何もなかった場所に町を作ったわけだから当然なんだろうけど、オフィス街とすすきのなど歓楽街とがはっきりと街区別となっていること、また、どこに行っても路地というものが見当たらないことは新鮮だった。
素朴に言ってしまえば、これこそまさに “新天地” だったろうし、それほどの歴史がない──と言う時はヤマト(大和)史観に染まり切っている自分を顧みるべきか──からこそ、そこに住む人々はこの狭い島国の中でどれほど自由だろうか、などと思ってしまった。
[ホテルでもらったタウン・マップ]

翌日は小樽へ。初めて訪れる所だ。
[小樽へ向かう車中で虹を見る]

[小樽のメイン通り]
「20世紀半ばまで、石狩地方で産出された石炭の道外への輸送やロシアとの交易で栄え、1920年頃までは札幌の人口よりも多く、函館に次ぎ道内第2位の人口があった。しかし1960年代以降、石炭需要の低下と北海道内の炭鉱の閉山、ロシア貿易の衰退、太平洋側の苫小牧港や近隣の石狩湾新港の整備により港としての機能は衰え、人口も最盛期より35%も減少している。往時の繁栄を偲ばせる近代建築が市街の至る所で散見され、観光資源となっている。小樽運河は全国的に知名度が高い」とウィキペディアにある(適当に改変)。
確かに、クラシックな建物が散在しているが、2カ月程前にイタリアを旅した眼にはそれほどの物と見えなかった……というのはまことに勝手な言い草。そう思っていると、なんとここには、18世紀のヴェネツィアの宮殿を模し、展示室やカフェもあるヴェネツィア美術館がある。

[小樽運河]

小樽駅そばに海産物を商う「三角市場」があったが、これはどうやら観光市場であって、観光ボランティアの人から教えられ、バスに乗り「新南樽(なんたる)市場」へ。鮮魚コーナーでは威勢のいい店が何軒も並び、カニやシャケ、ホッケ、ウニ、イクラなどが次々と買われている。地方発送もお手の物、てきぱきと実に手際がいい。帰宅して食べたホッケの味は、福岡市で食べるものとはやはり違っていた。これを食べるためだけでもまた北海道を訪れたい。
[新南樽市場]

[ホテルの部屋から眺める札幌の夕暮れ]


[帰りの機中から見る海の中道(手前)と能古島]

→花乱社HP