■高校卒業半世紀後のコラボレーション──『田舎日記・一文一筆』 |
一話約1000文字の光畑さんの随筆中より漢字一文字を選び出して棚田さんが揮毫、両者を左右ページに配置した。それが計108話(言うまでもなく人間の煩悩数)。題して『田舎日記・一文一筆(いちぶんいっぴつ)』。
当然、書も108点(文字)あるわけで、なんと!──といっても、そもそも企画進行中に私が言い出したことなのだが──棚田さんは一字一字をすべて異なる筆で書き上げた(穂先材質は同種あり)。ヒツジ・ウマ・ネコ・ネズミ・ブタ・サル・テン・ムササビそれにマングースなど動物の毛が主で、アシ・カズラ・ワラ・タケなど植物、そしてとりわけ異色なのがコンニャク、紙紐、半紙(まるめて使用)。忘れてはいけないのが胎毛、それに女子高生(棚田さんは元教諭)のやや赤みがかった頭髪はやはり今でも艶かしい。
「それぞれの筆にはそれなりの持ち味がある。人間の個性があるように。書き進めていくうちに筆を使うのではなく、その筆の持ち味にまかせて書こうという考えにいつしか変わっていった」と「まえがき」で棚田さん。
いずれの書も味わい深く、時代と人間と生活をユーモアを混じえゆったりとした筆致で描き上げる光畑さんの随筆と相俟って、豊かなハーモニーを奏でている。
この企画の言い出しっぺ・光畑さんの言を待つまでもなく、これは前代未聞の本だ。
適当な見開き2カ所を掲げておこう。書は「魂」(筆はイノシシ)と「笑」(ヒツジ。まさに破顔している)、いずれも大事な言葉(文字)だ。もし在るとすれば則ち命を超えるものとまさに此の世を生きるためのもの。



先日、表紙カバー用の撮影(筆108本)のため、写真家の川上信也さんと一緒に棚田さん宅へ伺った。帰りしな、書斎テラスで著者近影も撮ってもらう。あいにく雨が降り出していたが、遠くに盛りを過ぎた桜を眺めるロケーションの下、笑顔の零れ具合がとても嵌(はま)っていた。
お二人は旧豊津高校(現育徳館高校)の同級生。卒業後半世紀、ただ並んで立つだけで漂う “まるごと承知済み” の親密感──生きているのはいいな、と柄にもなく思った。ちなみに当日改めて知ったのは、棚田さんには共著で『三輪田米山游遊──いしぶみガイド』(木耳社)があり、その共著者の一人が私の高校時代の同級生・入山忍君であることだ。人と人とは、どこかで繋がっている。
5月中旬刊行予定。いい本ができそうだ。いや、関わり繋がっている人みんな、そして読者のためにも、いい本にしなければ。

[4/14最終]
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