■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7] |
折角筑後方面に行くのならということで、その前に岩戸山古墳(八女市、国指定史跡)に立ち寄った。周堤を含め全長170メートル以上、6世紀前半に築造された北部九州最大の前方後円墳。九州古代史の本を手掛ける際に必ずと言っていいほど出てきて、筑紫君磐井(つくしのきみいわい)の墓ではないかとされるこの古墳を、私は実見したことがなかった。
古墳の北東側に出っ張った、一辺43メートルの方形区画「別区」(珍しいものらしい)からは100点を超える石人・石馬類が出土したとのことで(レプリカが10体程据えられている)、写真はそこから望む後円部。真に月並みだが「夏草や兵どもが……」を想うしかない。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_22314240.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/07/17/d0190217_22314240.jpg)
墳頂部。木陰では風が吹いていたが、蜘蛛の巣それに藪蚊が多かった。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_12533055.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/08/17/d0190217_12533055.jpg)
古墳傍には岩戸山歴史資料館。ここの職員はとても親切丁寧で、この古墳はまだ発掘中であり、周辺には150から300の古墳があると推定され「八女古墳群」と呼ばれていること、その大半が盗掘に遭っているが、ここ岩戸山のみがかつて墳頂部に神社(大神宮)があったためかそれを免れた……などの話をしてくれた。待ち構えていた解説ボランティアの方の話も要を得ている。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_1259391.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/08/17/d0190217_1259391.jpg)
ロバート・キャパ展が開かれている九州芸文館(隈研吾設計、2013年オープン)にも初めて訪れた。JR筑後船小屋駅の真ん前だ。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_20533083.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/08/17/d0190217_20533083.jpg)
買って来た絵葉書より。「パリの解放を祝う人々」1944年8月26日。この集団劇のような、顔、顔、顔……一体全体、みんなどこを見ている? 画像修正せずにここまで隅々が鮮明なものだろうか。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_13184248.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/08/17/d0190217_13184248.jpg)
同じく絵葉書から、「ゲルダ・タロー」1935年。ゲルダは若き日のキャパの恋人で、写真家活動のパートナーであった。そもそも「ロバート・キャパ」というのは、当初、本名アンドレ・フリードマン(ハンガリー生まれ)がゲルダ・タロー(本名ゲルタ・ポホリレ。ドイツ生まれ)と共同で作品発表した時の架空の名。ゲルダは1937年、スペイン内戦を取材中に事故がもとで死去。27歳目前だった。
近年、沢木耕太郎が、あの著名なキャパの「崩れ落ちる兵士」は、実はゲルダがローライフレックスで撮ったものであると論証している。キャパは終生、この作品について何も語らなかったという。
おそらくゲルダは、いかにも幸せそうな──微かに微笑んでいるように見える──寝姿を、世界中で一番覗かれ続けてきた女性だろう(パジャマは男物か)。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_13121419.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/08/17/d0190217_13121419.jpg)
戦地におけるキャパは、兵士の虚ろな後ろ姿を多く撮った。狙撃されて倒れた直後のカットもある。その “彼” は、墳墓にではないとしてもきちんと葬られただろうか。
展示会場を出て、施設中心部にある多目的広場の端の階段を昇ろうとすると、モノクローム画像に見入り疲れた眼に夏雲の輝きが飛び込んできた。雨続きの日々、この光景に焦がれていたことをちらと思い出したが、すぐさま私は熱暑に包まれた。階段の向こうには矢部川河畔が広がる。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_20345792.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/08/17/d0190217_20345792.jpg)
今日の夕暮れ。
陽が翳る前に帰宅し、いつものごとく西ノ堤池(福岡市城南区)の周りを早足で歩く時も、私の脳裏からゲルダの微笑みが消え去ることはなかった。80年前に留められた彼女の俤(おもかげ)に恋したのではなく、儚いからこそ不滅なるものすべての象徴として……。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_23255634.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/07/17/d0190217_23255634.jpg)
[おまけ2点]9月4日、事務所入居のビルより(福岡市中央区舞鶴)。
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_22311111.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/07/17/d0190217_22311111.jpg)
![■80年前の微笑み──岩戸山古墳・キャパ展・週替わりの夕暮れ[14.9.7]_d0190217_22302289.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201409/07/17/d0190217_22302289.jpg)
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