■秋がばさりとやがて来る日を |
平和台競技場の入り口向かいにある古木は、まだ少し黄色みがかる程度だった。この木は、数年に一度だが、それは見事な秋の装いを凝らす。秋の暮れ、総身に黄を纏い青天に伸び上がろうとする大イチョウ──ありとあらゆる景物の中で、これ以上ゴージャスで儚いものは無い。
紅葉/黄葉が夏日に耐えきった樹木の命の証だとして、雨続きだった夏のことを思えば今年は期待できそうにないが、さて1週間後はどうだろう。
とりあえず、市美術館横の紅葉で我慢することに。

こんな日は高村光太郎がいいかな。
秋を待つ
もう一度水を浴びよう。
都会に居れば香水くさくなるし、
山にのぼれば霧くさくなるし、
たんぼにゆけばこやしくさくなる。
良心くさいのさへうれしくないのに、
ああ己はそこら中がべとべとだ。
太陽や神さまはいつでも軌道のそつちに居てくれ。
あの西南の空の隅から
秋がばさりとやがて来る日を
胸のすくほど奇麗になつて待つ為にも、
さあもう一度水をあびよう。
すつかり拭いた自分のからだから、
円(まろ)い二の腕や乳のあたりからかすかに立つ
あの何とも言へない香ばしい、うまさうな、
生きものらしい自分自身の肌の香ひをもう一度かがう。

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