■やれやれな同好の士、そして『野田寿子全作品集』──週替わりの夕暮れ[3/22] |
ここしばらく胸躍るような夕暮れに遭遇していないこともあり、本欄左の「記事ランキング」に何故かこのところ “再登場” している「週替わりの夕暮れ 3[2013.10.6]」のことが気になる。まあ、いいか。
![■やれやれな同好の士、そして『野田寿子全作品集』──週替わりの夕暮れ[3/22]_d0190217_2241013.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201503/22/17/d0190217_2241013.jpg)
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西ノ堤池(福岡市城南区)の傍には3段(10・15・20センチ)の昇降(ステップ)台があり、そもそもが山に登るための体力維持をウォーキングの筆頭理由とする私にとって、歩いている途中に行うこれの昇り降りは大事な場面。
しばらくやっていると、傍に中年男性が現れた。一つ飛ばしたステップで同じ動きをしようとしたので、同好の士と思いきや、すぐさま彼は私の顔を覗き込むようにして言う。「あの……失礼ですが、お年はお幾つですか?」
ここを歩き始めてもう10年以上になるだろうが、知らない人からまともに話しかけられたのは初めて。私が年齢を言うとひどく驚き、あなたのように歩くのが速い人は見たことがない、と(本当にそう言った)。
褒められたり感心されると嬉しいので、歩くスピードでは敵わないと思う人がここでこれまで二人居た、などと私が話すと、彼は、自営業であること、煙草をやめるには森永スキムミルクが効くことなどを語る。55歳でずっと独身、自分は頭の回転が鈍いので反対のタイプの女性が好みだがなかなか居ない、などという話になってきて、ステップの昇り降りを続けながら聞いていた私は、うっかり足を踏み外しそうな気がしてきた。
「僕の同級生にも未だ独身が居ますよ」と私が言うと、相手は「では、お気をつけて」と言って立ち去った。別に慰めようとか励まそうとかというつもりでもなかったが……気を悪くさせただろうか。この間3分。やれやれ。
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昨日、仕事の関係で、『野田寿子全作品集』(土曜美術出版販売、2012年)という大冊(A5判・874ページ)を預かった。
全くの寡聞にして名前に記憶がある程度の認識だったが、野田寿子(1927〜2012年)は、福岡県内で高校教諭をしつつ丸山豊・谷川雁・吉本隆明らとも親交のあった詩人。
亡くなる2カ月程前に刊行されたこの全作品集、函に巻かれた帯の表には伊藤桂一の言葉、「(略)全九州ほかに気焔を吐きつづけた女流詩人の、滋味深い詩と散文を集成した大冊。女流らしい明快な説得力に快く酔わされる。衰えがちな現代詩の気力を甦らせてくれる一巻である」、背には「女性の視点で社会と向き合う詩人の全業績!」とある。
──これもまたやれやれだが(一体どうした、土曜美術出版)、そこまで「女流」に拘る内実は、と思い、ザッとめくって気になった一篇。
月経 ─アウシュヴィッツによせて─
―そこだけは
いつもじぶんがいるというかくれがを
おんなはもっている
そこにいけば
つかれたてあしに血がのぼり
とおいはじめや
とおいゆくてが
じぶんのまんなかにつらぬいて
よみがえってくる ばしょを
おんなは みんなもっている
そこにいるときは
めにはみえないおんなというおんなが
かさなりひびきあうのを
からだじゅうでかんじている
けれども だれひとり
口にだしてはいわない
そこにとどいた根は
けっしてかれることがない
そこにはだれもふみこめない──
扉をしめたその時
すべては終ったとおもったにちがいない
彼等ナチスの親衛隊ら
何回めかのガス炉おくりを終えて
オフィスマンのひけどきよろしく
明るい食卓をおもいうかべたか
彼等ヨーロッパの死刑執行人ら
ナンバー一、二、三、百、千、万
髪 肉 皮 骨 あぶら
のたうち 焦げ とける
瞬間になお
まはだかの女達のももを伝っていた月経を
見つめていた眼をごぞんじか
おみごとな合理主義者ども
―せかいじゅうのおんなたちが
ひそかな自分のばしょから
みつめていた
さからいつづけ
ゆたかなままで
いきたえた月経を
まっ白な眼をあげ
おんなたちは息をのむ
“なんと! むすこだ
自分たちをねらうのは”
わかれて久しいむすこたち
むすこは母を忘れた
むすこはしらない
かつてかれらにつながり かれらを守った
ひそかな母の場所を
おんなたちが生きのびたおくふかい場所を
おんなだけのかくれがだったのか
ここは……
せかいじゅうのおんなは
ガス炉に流れる月経をみつめ
じりじりとたちあがる──
きこえるか
狩り場のまんなかをあるいてくる
女たちの足音が
灼けはてた土地に
さまよう息子を呼びながら
創られた姿そのままに
歩きだした女たち
息子たちをうばいかえすのだ
息絶えた月経を
彼等にそそぎこむのだ
そこにしか女はいない
自分をとりもどしに行く女たちに
もうかくれがはない
![■やれやれな同好の士、そして『野田寿子全作品集』──週替わりの夕暮れ[3/22]_d0190217_12101531.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201503/23/17/d0190217_12101531.jpg)
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![■やれやれな同好の士、そして『野田寿子全作品集』──週替わりの夕暮れ[3/22]_d0190217_2255053.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201503/22/17/d0190217_2255053.jpg)
![■やれやれな同好の士、そして『野田寿子全作品集』──週替わりの夕暮れ[3/22]_d0190217_226675.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201503/22/17/d0190217_226675.jpg)
段々暮れてくると、月の上方にある星に気付く。「宵の明星」と言われる金星か。
![■やれやれな同好の士、そして『野田寿子全作品集』──週替わりの夕暮れ[3/22]_d0190217_2262135.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201503/22/17/d0190217_2262135.jpg)
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