■絶体絶命、女からの呼び声──『チャイルド44』、そして小雨のち夕焼け[週替わりの夕暮れ:7/19] |
舞台は1950年代、スターリン君臨下のソヴィエト連邦。国家保安省の捜査官(トム・ハーディ。あの『ダークナイト・ライジング』でバットマンをさんざ痛めつけ、最後はあっけなかった悪役ベイン)とその妻(ノオミ・ラパス。『プロメテウス』のヒロインより、本作が数段良い)が、独裁国家の病理と言える政治的陰謀に巻き込まれ、そこに、子供ばかりを狙った猟奇的連続殺人事件が関わってくる。煤煙立ち籠める陰鬱なモスクワと田舎町、誰がスパイなのか、はたまた誰からいつ、与(あずか)り知らぬ密告をされるか分からぬ人間関係、幾重にも仕掛けられた謎。
孤児院を出自とし、成り上がって尊大な主人公は権勢を振るい、「英雄」(ヒーロー)と称えられる一方、「怪物」(モンスター)として恐れられてもいる。妻も、断れば迫害されるという恐怖から彼のプロポーズを受け入れただけで、いわば虚飾と利害で繋がる冷えた関係。その妻にスパイ容疑がかけられ、夫に捜査が命じられる──。
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脱線するが、権力を私物化し独裁を指向しようとするのは何も「共産主義」を標榜する者たちに限ったことでないのは、ドイツ・ワイマール時代が産み出したヒトラーや今現在この国で、見せかけの「多数決」に居坐って粛々と行政府独裁を進めている輩を見ての通り。
“彼ら” はまず、「外患」を煽り情報・危機管理の緊急性を盾に取って「スパイ法」を制定、あらかじめマスコミやジャーナリスト、学者を萎縮させて抵抗者/勢力を裁く法律を準備し、真実を覆い隠す手筈を整える。そこでの真実とは「核」(原発→核兵器)に他ならない。「核」を握った権力は必ず国民を欺く。よって、原発を無くすわけにはいかないのだ。続いて、文民統制(シビリアン・コントロール)をなし崩しに解除し、兵器産業界やグローバル企業と結んで、いずれ核兵器の開発・輸出を目論む(既に進行中か)。
その際の「人心」支配の布石として、社会の中から決して差別心や憎悪感情を払拭させてはならない。「反中・反韓」、世代間ギャップ、ヘイトスピーチなどは野放しにしておくに限る。敵や脅威を取り払ったら、自分たちの身と利益が危うい。
さらに、公教育における洗脳、そして新たな「臣民」創出政策。短期的には、国立大学を補助金で締め付けて、権力批判の温床となりがちな人文社会科学系の学部を消滅させ(そのうち私学にまでその影響が及ぶはず)、長期的には、小学生から道徳や民族主義教育を押し進めて権力に盲従する人材を育成しなければならぬ。憲法遵守義務を課せられているにも拘らず自らは「改憲」を喧伝しつつ、「憲法9条」とプリントされたTシャツを着て職場に来ただけでも教師を職務違反で取り締まる。
こうしてめでたく私たちは、「犯罪など存在しない楽園(=「美しい国」)」の住人となる。そこでは最早、「中国や北朝鮮とどう違うの?」という問いを持つ人間も居ないだろう。──
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気持ちが殺伐としてきたので、『チャイルド44:森に消えた子供たち』に戻る。
特筆すべきは、二人が襲われる暴力シーン。カメラ・ワークは目まぐるしいが、凄まじくリアルな肉弾戦が展開される。殴られ蹴られ、或いはナイフで腹を刺されて昏倒している男──ここでの関係は最早夫・妻でなくただの生身の男と女、もしくは同志──に向かって、自分も戦い大男にぶん殴られている女が呻きつつ「レオ!」、「レオ!」、「レオ!」と幾度も叫ぶ。そうした場面が二度あり、女は合わせて何度男の名を呼んだか……。
絶体絶命の窮地における女からの呼び声──それは「召命」と言うほかなく、どうあっても男は立ち上がって応えなければならない。
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夕方5時半にウォーキング出発。すぐに細かい雨。歩き始めたからには中止したくない、そのうちに止むだろう。
路側の枝先で蝉がちょうど羽化中。これまで、しげしげと見た記憶がない。羽化したばかりはこんなに白っぽいのか(翌朝には成虫色になるようだ)。アブラゼミだとすると、雌伏6年を経てのこと──早く森の中に消え去りたいだろう。邪魔したくないので、離れてズームで撮ったらピンぼけに。この天気だから、今日の写真の収穫はこの1枚だけかも、と予測。
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西ノ堤池(福岡市城南区)を周回中も降ったり止んだりで、折角来たのだからせめて3周と思っているうちに少し止み、では5周にと目標修正、さらに歩き続けるとまた降り出す。
それでも次第に雲が退いていった。
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途中、昇降台を昇り降りしている時に気になった葉。1枚だけひっそりと守られている風情。
![■絶体絶命、女からの呼び声──『チャイルド44』、そして小雨のち夕焼け[週替わりの夕暮れ:7/19]_d0190217_22565289.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201507/19/17/d0190217_22565289.jpg)
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池を去る頃には、多彩な雲が浮かぶなかなかの空模様に。
![■絶体絶命、女からの呼び声──『チャイルド44』、そして小雨のち夕焼け[週替わりの夕暮れ:7/19]_d0190217_22562036.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201507/19/17/d0190217_22562036.jpg)
帰り道でもどんどん彩りが増す。私はこの数年、どんな場面であれ──たとえ凄い美人と擦れ違おうとも──基本的に振り向かないようにしているが、夕焼けだけは別。刻々たる背後の変化を見逃すわけにいかない。
![■絶体絶命、女からの呼び声──『チャイルド44』、そして小雨のち夕焼け[週替わりの夕暮れ:7/19]_d0190217_22571794.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201507/19/17/d0190217_22571794.jpg)
自宅の近くで。やむなく残像を持ち帰る。
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