■筑豊の、闇ではなく夕暮れ──週替わりの夕暮れ[11/12・15] |
福岡市から行橋市まで63キロ。道路やトンネルが整備され、福岡県北部を横断するのも随分と速くなった。八木山(やきやま)を越えて飯塚市に入り、飯塚庄内田川バイパス─筑豊烏尾トンネル─201号線とひた走る時、私は一種独特の感覚を味わう。
そう書いてすぐに思い出すのは、かつて久本三多氏(ひさもとさんた、葦書房初代社長、1946〜94年)がよく「八木山を越えれば、そこは筑豊の闇だ」という言い方をしていたこと。それは、広く筑豊地域が日本近代化の過程で背負わされてきたもの──エネルギー源としての石炭の一大産地──に主として由来すると思われる風土性や気風についての謂(いい)だろうが、それにしても少し大仰だし、現にそこに住んでいる人々のことを思うと乱暴勝手な言い草ではないか──と私は思ったものだ。
ただし、いわば仮に “負” の側面に目を向けたものだとしても、そうした特定の土地──そして勿論、人間──への過剰な思い込みや思い入れが、例えば「出版」という仕事における重要なモチーフや梃子となることがある(トポス性に向かうパトス──と言えば話は簡単だろうか)。土地や人間への鋭敏かつ時として過剰な思い入れや拘りを抜きに、筑豊(山本作兵衛翁)や水俣(石牟礼道子氏)、長崎、天草などに関わる久本氏の「先駆的」と言っていい仕事は生まれなかっただろうと思う。無論、編集者は “本の成立” において黒子的存在であり、著者は当然として、その他多くの協力・関係者が居たことを忘れるわけにいかないが。
*久本氏についての参考記事→久本三多氏のオルト邸、それに長崎チャンポン
ここで私が道について言おうとしているのは、そうした話とは異なる。ドライバーとして味わう独特な感覚は、香春(かわら)─伊田(いた)─弓削田(ゆげた)の田園地帯を横断する殺伐たる二車線を過ぎ、筑豊烏尾トンネルを抜けた辺りからの戻り道に、より明確となる。直線的かつ緩やかな傾斜を長々と下っていく道からは、行く手の見通しがいいのと、ともかく空が大きいのだ。次第に私は、複葉機に乗って長い滑走路を飛び立とうとしているかのようにフワリとした心持ちとなる。
真西に向かうその車窓から、薄紅色に染まった鱗雲が見え始めたりすると、段々と落ち着かなくなる。このまま走り去っていいのか──。どこかで脇に車を停めたいが、みんな飛ばしているし、いざ停車しても建物や電柱・電線に遮られることが多い。
空は次第に、夜の深さを予感させるように碧みを増してゆく。この辺りはきっと、空気も澄んでいるのではないか。……はてさて、私も「筑豊の闇」を語り始めているのだろうか。
*201号線ドライブの参考記事→グラデーションな一日──国東半島出張帰りの夕暮れ
![■筑豊の、闇ではなく夕暮れ──週替わりの夕暮れ[11/12・15]_d0190217_21444962.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201511/15/17/d0190217_21444962.jpg)
信号待ちの間では収まらなくなり、70キロで走行中もシャッターを押すことに。
ここでの道の話をもう一つ付け加えるならば、この画面の先はやがて八木山バイパス(昨年9月まで有料だった)に繋がるが、この一車線道路を走るのを私は好きでない。傾斜がきつい上に路肩がかなり狭く、トンネルも多くて閉塞感が募る。ところが、ここに来るとみんな急に速度が上がるように思う(後ろの車からせっつかれている気になることが多い)。何故なのか──。信号の無いことが第一だとして、折角有料道路に入ったのだからノロノロ走っていられるか、という切迫感があるのかなと思ってきたが、さて、無料化された以降はどうだろうか……。
旧道峠上には、如何にも昭和っぽい、ドライバー向けの蕎麦屋や中華食堂があったが、今頃はさらに打ち捨てられた風情を濃くしていることだろう。──いや、これまた、最早自分も足を踏み入れることのない世界への余計な思い入れ、と言われるかな。
![■筑豊の、闇ではなく夕暮れ──週替わりの夕暮れ[11/12・15]_d0190217_21454924.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201511/15/17/d0190217_21454924.jpg)
●15日
日没を見たくて、5時前にウォーキング出発。
西ノ堤池では、まだ虫の音が。それもよく聴くと、4〜5種居る。私は歩く時、ウォークマンやラジオを携帯しない。できるだけ感覚を解放して外界と接したいからだが、11月半ばまで虫が鳴くことについて、これまでほとんど(耳には入っても)意識したことがなかったことに気づく。さて、来週はどうだろうか。
![■筑豊の、闇ではなく夕暮れ──週替わりの夕暮れ[11/12・15]_d0190217_21525214.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201511/15/17/d0190217_21525214.jpg)
くっきりとした上弦の月が浮かんだ。
![■筑豊の、闇ではなく夕暮れ──週替わりの夕暮れ[11/12・15]_d0190217_21564750.jpg](https://pds.exblog.jp/pds/1/201511/15/17/d0190217_21564750.jpg)
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