■「だから、あたしたちが/夕方になるのです。」 |
今日夕刊の「朝日新聞」では、菱木紅(ひしき・べに)氏の「夕方」を詠った詩。
地も果ても
そして、あたしたちは
夕方をあるきました
夕方のように
ならんでいます
こんなことが
とおくにあったような
気がします
けれど
けして
もう
こんなことは
ぜったいに
ないのです
だから、あたしたちが
ならんであるきます
夕方のように
夕方になるのです。

菱木氏は1950年生まれ、大阪文学学校事務局員。
夕方や夕暮れは、センチメンタリズムを誘(おび)き寄せる恰好の素材だ。そして、センチメンタリズムこそは大概傍迷惑(はためいわく)な代物だ(三島由紀夫を想起してもらったら分かる)。
この詩は「こんなことが/とおくにあったような/気がします」とセンチメンタルに詠いながら、すぐに「けれど/けして/もう/こんなことは/ぜったいに/ないのです」と言う。
「地も果ても」という題からは、濃いオレンジに染まりきった世界を思わせられるが、それを夕暮れでもなく夕焼けでもなく「夕方」という、情景というより単なる時間の方に持っていったところに、この詩人の結構な策略があるように思う。
[多分、書き掛け]