■相手の袖を持って…引き起こした田知本遥選手 |
その決勝戦。序盤に指導を取られたものの、技あり→押さえ込みで一本勝ち。
押さえ込んだ体勢から上半身を起こし、被さった髪をかきあげた時の顔は痛々しくも清々しい。立ち上がろうとして、何気なく相手の右袖を掴み、労うようにそっと引き起こした。普通なら意気揚々、飛び起きてさっさと自分の立ち位置に戻るところだろう。

その一瞬のしぐさに、不覚にも私は「あ、日本女性…」と思ってしまった。どうなんだろう、相撲ではよく見掛けるが、柔道でもそういう教えがあり、珍しくない場面なのかどうか。
ともあれ、彼女にとってこの4年間がどういう日々であったか──その抑えた表情と物腰によく現れていた。

後で、決勝で戦ったコロンビアの選手は、日本人が指導し、頻繁に日本でも練習している相手だったことを知る。
それならあの場面も頷けるということになるが、美しさというものがやはり内面から滲み出るものだということを、改めて田知本遥さんは伝えてくれたように思う。