■阿蘇とくじゅうの現在を伝える写真集──川上信也『阿蘇くじゅう・朝の光へドライブ』刊行 |
元々川上さんは、くじゅう山麓・法華院(ほっけいん)温泉に勤務(7年間)する傍ら本格的に写真を始め、山暮らしでの成果は、いずれも傑作と言っていいエッセイ&写真『坊がつる山小屋日記──くじゅう法華院温泉の12カ月』と写真集『くじゅう万象──坊がつる日月』(いずれも海鳥社)に結実した。福岡市に拠点を移したこともあって、フィールドは福岡から九州へと広がり、『福岡の休日』(海鳥社)、『フクオカ・ロード・ピクチャーズ』・『九州・色彩をめぐる旅』(いずれも花乱社)が生まれた。以上すべてを私が編集担当した。
川上信也という写真家を得たこと、それは “福岡” にとって幸福なことだ──私はそう公言してきた。彼の写真を一枚見たら、分かってもらえるはず。目の前の空間──それを私たちは「風景」と言う──に、自己の観たい “絵柄”(即ちイリュージョン)を呼び寄せることのできる人間が、世の中には居る。
そしてこの歳の暮れ、6冊目となる『阿蘇くじゅう・朝の光へドライブ』で川上さんは、自分が風景写真家としてスタートしたくじゅう、そして阿蘇へと連なる「道」をいわば主人公に、朝、ここをドライブしたとすれば誰でもが出合える “かも知れない” 色々な風景を纏めた。このところ『森の生活』で知られるソローをじっくり読んできたとのことだが、ここには、自然風景に対する新しい視線を獲得した川上信也が居る。
車窓の向こうに広がる草原・森・山々、そして何でもない道端で展開される奇跡を、是非ご覧いただきたい。
熊本・大分県に広がる阿蘇くじゅう国立公園。特にくじゅうは登山でもにぎわう場所として親しまれている。僕自身、二〇〇四年にくじゅうの山々を登っていた頃の作品をまとめた写真集を出版しているが、ある日、早朝のくじゅうを車で走ったときのこと、あまりにも美しい伸びやかでやさしい高原風景がずっと阿蘇まで続いているというこの土地ならではの大きな魅力を、改めて知ることになった。
登山で出合う特別な風景とは違い、普段から身近に存在している自然が見せる力強く優しい美しさ。そして朝の光の到来とともに、さらにしなやかさを増す雄大なる高原風景。今まで知っているようで知らなかった新たなる阿蘇くじゅうが次々と姿を見せる。
撮影を続けたこの三年の間、この地域は大規模な噴火に二度、そして大きな地震という災害に見舞われた。多くの人たちが大変な思いをしながらも復興を進めている。阿蘇くじゅうの美しさの裏には当然、自然の厳しさが潜んでいる。そして、今はとにかくここに来てくれることだけでも大きな復興の力になる、という声を何度も聞いてきた。
僕も以前と変わらず足を運び、写真を撮り続けている。この写真集にも、地震後に撮影したものを十枚以上掲載している。もちろんこれからもずっと撮影していくことだろう。──「あとがき」より抜粋

本書刊行を記念した写真展が、来年1月にかけて3カ所で開催される。
●『阿蘇くじゅう 朝の光へドライブ』刊行記念 川上信也写真展&スライドトークショー
12月10日(土)~1月29日(日) カフェ&ギャラリー・キューブリック(ブックスキューブリック箱崎店2F)
*10日(土)午後7時から川上さんによるスライドトーク・ショーが行われる(僕も参加します)。
●川上信也写真展「阿蘇くじゅう 朝の光へドライブ」
12月12日(月)〜18日(日)
ギャラリー風(福岡市・新天町)


●川上信也写真展「阿蘇くじゅう 夜明けのドライブ」
12月23日(金)〜28日(水)
富士フィルムフォトサロン福岡


*
今回の写真集には、川上さんの詩が15編添えられている。写真と併せて3篇を掲げる。
姿の見えない鳥たちが絶え間なく歌い、
僕が踏みしめる落ち葉がリズムをとる。
ポコポコ、サワサワ、
柔らかな川の音色が世界に不思議な調和を与える。
夜明けの森に響く交響曲。
ときおり朝もやがステージを覆い、
ひとときの静粛がおとずれたかと思うと、
再び幕が上がり音楽を奏でる。

山々も花々も目覚めている。
豊かなる色の先には、
雲と山が静かにふれあう
やさしい世界が創り出される。
かつて湖だったという大昔から、
ずっと繰り返されている
新しい世界のはじまり。

森のすみっこでは
小さな葉っぱが次々と
豊かな色彩を振りまいている。
この炎がやがて
森全体に広がってゆく。

[12/2最終]
→花乱社HP