■昨日・今日の夕暮れ──春は遠くからごむ輪のくるまにのつて来る。 |
帰宅しようとしてバイク駐車場に向かう途次、何でもない物語のような夕暮れを見上げる。
どうしようもなく親和的な月が浮かんでいるのに、ふと、萩原朔太郎『月に吠える』(1917年、萩原32歳)を思い起こしてしまう。
陽 春 萩原朔太郎 (『月に吠える』所収)
ああ、春は遠くからけぶつて来る、
ぽつくりふくらんだ柳の芽のしたに、
やさしいくちびるをさしよせ、
をとめのくちづけを吸ひこみたさに、
春は遠くからごむ輪のくるまにのつて来る。
ぼんやりした景色のなかで、
白いくるまやさんの足はいそげども、
ゆくゆく車輪がさかさにまわり、
しだいに梶棒が地面をはなれ出し、
おまけにお客さまの腰がへんにふらふらとして、
これではとてもあぶなさうなと、
とんでもない時に春がまつしろの欠伸をする。
*参考(私はどのようにして月に吠えたいか)→宮迫千鶴さんとのこと
●3月5日
ぽつくりふくらんだ柳の芽のしたに……
花もなく、虫も鳴かないが、冷たい風の中での夕焼けは気持ちを落ち着かせる。
どこに行っても、どこで暮らそうが、水辺から離れることはできない。
[3/9最終]