■谺する言葉、響き合う命──多田 薫 句集『谺せよ』刊行 |
前記、髙野吾朗詩集『日曜日の心中』と同じ発行日(22日)、同じく私の(こちらは年長の)友人の著書がもう一冊、出来上がった。
多田薫句集『谺せよ』(四六判/194ページ/上製本/税込2160円)。
多田さんは、昨年11月15日、67歳にて逝去。
本書は妻の孝枝さん(『俳誌 六分儀』編集長)が、薫さんとの約束を果たそうと、結婚45年になる2月22日刊行を目指して編集、既刊の『句集 草笛』(孝枝さんの『道草』との夫婦句集、2000年)、『句集 蜻蛉(とんぼ)』(2006年)収録分に未発表作を加えた中から450句を選び収めた。
●表紙カバー表
題字:山本素竹

●表紙カバー裏
装画:西島伊三雄

なお、装丁は私が担当、紙の手触りを大事にした。本は触って、ページをめくって、読むもの。
序文は、薫さん生前からの希望で筑紫磐井氏に依頼、その明快で味わい深い句評の一部は小社HPに掲げさせていただいたので、ここでは私の好きな句を本文登場順に各季5句ずつ掲げる。
【秋】
送火や母の齢を二つ越ゆ
すすきの穂傾く方へ歩くかな
蜻蛉や空の青さに見失ふ
鼻先に蜻蛉かはりがはりくる
全山の木の実降らせよ谺せよ
【冬】
銃眼の気になる角度冬の城
一日に七本のバス冬の旅
うろこ雲冬天に橋かけてゐし
生と死の小さなちがひ冬木立
風花と唇合うて仰ぐ空
【春】
春寒や夢との境行き戻り
水の音木の芽にふふむ森の午後
春雨や今日はぼうつとしていやう
ぶらんこに立つてこぐ子のひざのばね
山蜂のすつ飛んでまた戻り来て
【夏】
不安などどこにもなくて初夏の海
薫風やブロッコリーのやうな森
紫陽花や垣根の上の小舞台
燕の子五つの口の希みかな
空蟬の目にちよつぴりと残る過去
少年の心を抱えたまま、お会いするだけでニコッとしてしまう方だった。
[書き掛け]