■「戦争をするのとしないのとの違いは、とてつもなく大きい」──徳本正彦著『熟年を生きる──学問と人生のはざまで』 |
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2019年 07月 18日
今度の参院選ほど開票前から暗澹たる気持ちになる選挙はない。だが、映画『新聞記者』を観たことで、何とか持てる勇気を奮い起こそう。 この時期だからこそ、徳本正彦著『熟年を生きる──学問と人生のはざまで』(四六判/400ページ/上製本/6月刊行)を紹介しておきたい。 来年、卒寿(90歳)を迎えようとされる徳本氏は政治学専攻で、九州大学及び姫路獨協大学の名誉教授。40年間近い九州大学時代は、教え子もたくさんおられるだろうし、またこの時期は時事評者やコメンテーター役として新聞・テレビに頻繁に登場されている。 本書は、大学在職時の20年を前期、退職後の20年を後期として、「熟年」期40年間を生きてこその人生の奥行きと味わいを率直に伝え、「最後のメッセージ」としたいということでまとめられたもの。ただし、お気楽なエッセイ集ではなく、前半はご本人が「己の熟年時代の存在証明である」と言う政治学の論文三本、後半は旅行記、読書記録、それに「現実政治を問う」という括りでの随筆+講演記録となっている。 ザッと目次を掲げておこう。 第一部 政治の学を問う──六〇代の論文より 一 転換期の歴史的位相について 二 「知の冒険」をめぐる理念と現実──小畑清剛『レトリックの相剋』によせて 三 人類史的危機を孕む時代の政治学 第二部 人の世を見つめる──七〇~八〇代のエッセイより 一 旅に立ちて 1 地球一周の船旅から 2 悠久の大河を下る 3 アンコール遺跡群を訪ねて 4 玄奘三蔵の偉業をしのぶ 5 七〇代最後の春 阿蘇・信州・広島そして韓国 6 ルーマニア、ブルガリアへの旅から 7 バルト海クルーズ紀行 二 読書を愉しむ 1 最近の読書から 2 気になった二冊の本──吉本隆明『宮沢賢治』と島尾敏雄『死の棘』をめぐって 3 人間ドキュメントを追って──最近の濫読の中から 4 太宰治の『グッド・バイ』をめぐって 5 『雪国』を再再読して 6 藤沢周平を偲んで 7 私の読書人生 8 山本周五郎『栄花物語』を読む 9 東野利夫『汚名──「九大生体解剖事件」の真相』について 10 古きをたずね新しきに学ぶ──八八回目を迎える読書会 三 現実政治を問う 1 新世紀の光と影を思う──テロと報復戦争の行方 2 「生活の政治」の確立を目指して──二一世紀世代への伝言 第二部の目次を少し細かく掲げたのは、その行動範囲と関心領域の広さを伝えたいことから。特に、ブックレビューに関しては流石「読書のプロ」と言うほかなく、いずれも真正面から取り上げて詳しく論評、第一部の〈「知の冒険」をめぐる理念と現実──小畑清剛『レトリックの相剋』によせて〉70ページ分などは、そもそもが書評論文として書かれたもの。 ちなみに徳本氏は、現在でも毎月、延べ100回近くになる読書会に参加、多業種の方たちと意見交換をされているようだ。 400ページ分の文章の中で、とりわけ私が感銘を受けたのは、本文末尾の〈「生活の政治」の確立を目指して──二一世紀世代への伝言〉で、これは福岡県自治体問題研究所における85歳時の講演記録。 そこで徳本氏は、まさに現在進行形で喫緊の問題である立憲主義の危機、平和への脅威の増大に警鐘を鳴らし、危機克服の方途を考えていく。そのすこぶる論理的・説得的な方途については本書に当たっていただきたいが、ここでは「戦争」に関する言葉を引いておきたい。 私がここで声を大にして強調しておきたいのは、戦争をするのとしないのとの違いは、とてつもなく大きいということです。戦争というものは、為政者の側からすれば、非常手段による政策の貫徹ですが、人間の立場からすれば、正義の名のもとに行われる大規模な殺人と破壊です。端的に申しますと、殺し、殺されることを褒めたたえなければ、戦争はできません。ですから徹底した戦争の正当化が、政策の要となります。それに疑問を持つ者が「非国民」とされるのはそのためです。ここでは「非常事態」の名分のもとで基本的人権が制限されるのは当然だとされるでしょう。 回顧や一見教訓的な装いをまぶした「戦争/戦争時代」の美化、愛国心の(「おまえが言うか」的な)称揚・刷り込み、暴言や不用意発言を黙認する形でのなし崩し的地均し(馴致)……「戦争の正当化」はもう進んでいる。 「希望の世紀の実現をめざして」という項目で本文を終えた徳本氏は、最後に西南学院の「平和宣言」(西南学院創立百周年に当たっての平和宣言─西南学院の戦争責任・戦後責任の告白を踏まえて─)に触れ、かつて、ナチ占領下の苛酷な状況を体験したルイ・アラゴンの詩「フランスの起床ラッパ」からその一節を取り上げる。 「教えるとは共に希望を語ること 学ぶとは真実を胸に刻むこと」 この言葉こそまさしく、90歳を前にしてなお学び続ける徳本正彦名誉教授にだけでなく、夜郎自大と反知性主義が横行する──今こそが「悪夢!」の──時代を生きる私たちに贈られたものではないか。因みに、「悪夢」ならいつか覚めるが、今私たちが見ている無能で野蛮な者たちの跳梁跋扈は、いずれこの国この社会を滅ぼさずにはおかないものだ。 なお、本書編集作業を進める中、徳本氏が、私が大学時代にゼミで学んだ松下圭一先生と深い親交のあったことを知った。 「本書の出版にあたりましては、花乱社の別府大悟さんにお世話になりました。同氏は、かつて私が長い交流の中で知的刺激を受けた松下圭一さんのゼミ生だったそうで、松下さんが、二人を引き合わせてくれたのかもしれません」(「あとがき」) どこで、誰と、出逢うか分からない。学問と人生、仕事と生活、思想と現実の狭間で──未だ先達の在ることを歓びたい。 【参考記事】 [7/20書き掛け]
by karansha
| 2019-07-18 13:55
| 編集長日記
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