過ぐる10月25日のライオンとペリカンの会読書会、レポーターは髙野吾朗氏、テキストは宮野真生子・磯野真穂の往復書簡『急に具合が悪くなる』(晶文社)だった。
髙野さんは大学の英語教師だが、僕らは詩人・文学研究者としか見ていない。
既に3冊の英語詩集(Blaze VOX社刊)があるが、今年2月、小社にて初めての日本語詩集『日曜日の心中』を刊行した。
今回、テキストにした往復書簡が「病い」をテーマにしていることから、髙野さんはレジュメの参考資料中に、2016年に亡くなられた妻香江さんが書き遺した短歌の直筆分コピー1ページ分を添えていた。
一読、その言葉の徒(ただ)ならなさに打たれた私は、ブログで紹介したいと髙野さんに申し出て了承をいただいたが、後で躊躇ってしまった。
今日、机の周囲を整理していてそのレジュメと再遭遇。
やはり掲載させていただこう。
以下、香江さんの記述のままだが、適宜、語間を空けた。
2015.9月前半の短歌
9/3
今までで最高に愛といたわりと笑みのある我が家 癌のお陰で
見舞いには愛を下さい 心配はお返しします 欲しくないので
見舞いには愛を下さい 何も問わず 今生きている私を愛して
その期待 できることなら応えたい だから言わんで「どう?」「元気そう!」
9/4
「生は善 死は悪」という世の中を ぶん殴りたい晴天の昼
もっと上 目指す意識に「もう無理」と 癌で体が教えてくれた
9/5
「誰だってそのうち死ぬ」と笑う友 肩の力抜け世界広がる
「毎日を好きなことして生きよう」と決め 立ち止まる 「何がしたいの?」
9/6
灰の空 燈コスモス 黄信号 見る毎心揺れ深呼吸
いることと聞くことがママのつとめだね この世にいても あの世にいっても
9/9
時計捨て 人目忘れて空見上げ 今従おう体の声に
9/10
来年もゴロウと共に生きたいと ふと思う朝 飲む甘いお茶
9/13
蟬が鳴き鈴虫も鳴く日暮れ時 夏よ 来年また会いましょう
9/17
怒り・恥・頑固・正直・強さ・癌 亡き父からの大事なギフト
限られた日々の中、「どうせ私のことも詩にするんでしょ」と言われた、と髙野さん。
そして確かに、髙野さんは香江さんとのことを詩にした。
「歌」以前の衝迫と言うほかはない香江さんの言葉と、大切な人との最期の時をも言葉にしていく髙野さんの表現と――。
[書き掛け]