■「密の味」は「味わい深い不条理の怪談詩」──岡田哲也さんによる髙野吾朗詩集『百年経ったら逢いましょう』評 |


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2021年 04月 20日
![]() ![]() 『百年経ったら逢いましょう』(花乱社)の髙野吾朗さん(佐賀市)は、英語の詩集も三冊出している人ですが、これは日本語です。作品「密の味」を味わいましょう。 「あなたとわたしは 体に触れ合うことをもはや許されていない/触れ合えば お互いの肉体を破壊するどころか 社会に大きな/混乱を招きかねないと 権力者たちが一斉に禁じてきたからだ」 しかし「あなたとわたしは」「二人にしかできぬ秘密の密接行為を始め」ます。「わたし」は巨樹になったり、「あなた」は獣になったり、群衆の面前で処刑される羽目になったり、すっかり、昏睡状態で 老いさらばえてしまいます。だがと「わたし」は呟きます。 「あなたとわたしは 体に触れ合うことをもはや許されていない/それでも別に構わない 二人のこの秘密の行為に 終わりなど/全くないし たとえ全てが幻でも もう十分 幸せなのだから」 いかがです──。三密どころか万倍の密です。「密の味」はむろん楽曲「蜜の味」のもじりですが、味わい深い不条理の怪談詩です。 (岡田哲也「クロスオーバーする詩魂」〔「西日本新聞」4月20日〕より) 本詩集、装丁は、前作詩集『日曜日の心中』(2019年刊)と同じく、長崎在住の画家・塩月悠さんの作品「San Gertz Nigel Nina Ricciの肖像によるコンポジション」をあしらい、私が仕上げた。 本文中にもコンポジションを1点掲載。 (実は娘も塩月さんのファンだ。福岡で個展を開いてほしい) * 岡田さんは、詩の最初と最後の連を引用されている。 折角なので、ここで「密の味」全文を掲げておきたい。 髙野さんの詩はそのフォルムも大事なので。 密の味 あなたとわたしは 体に触れ合うことをもはや許されていない 触れ合えば お互いの肉体を破壊するどころか 社会に大きな 混乱を招きかねないと 権力者たちが一斉に禁じてきたからだ そこで二人は 長らく「役に立たぬ」と言われ続けてきた力を 用いて 二人にしかできぬ秘密の密接行為を始めることにした まず わたしの頭頂から どこにも実在しない一本の 巨樹が 伸び 緑の若葉を思い切り繁らせて 大地に大きな影をつくる すると あなたの背中が縦に割れ そこから 毛がふさふさの 愛くるしい顔をした四足の獣が現れ のそのそと巨樹に近寄る 獣と巨樹の他には誰もおらぬ 水を飲む習性も汗をかく習慣も ない この獣の唯一の食べ物は 猛毒を持つこの巨樹の若葉だ 幹にしがみつき 枝から枝へと這い 毒まみれの葉を貪る獣の おかげで 巨樹はみるみる丸裸にされていく わたしにはその 姿こそが わたしだけの真実の言葉のごとく見えるのだ 一方 毒まみれになった獣は 消化のため そして体温を下げるため 死者のごとく冷たい巨樹の幹を 懸命に抱えたまま 半永久の 眠りにつく 食べる葉はここにはもう一枚もなく 他に頼れる 樹木はもはやどこにもなく あなたの体へ戻る術もないままに あなたとわたしは 体に触れ合うことをもはや許されていない 接触せぬままなら もはや生きているとは言えないはずなのに 直に触れ合ってなくても 結局は間接的に触れ合っているのに 今度はわたしの中の誰かと あなたの中の誰かが呼び出されて くじを引けと命じられる 全ての国民が引かされているくじだ 国家滅亡を回避するための生贄と その生贄を殺す者の二人が これで決まる わたしたちが選ばれたのは本当に偶然のせいか それとも嫉妬ゆえの陰謀のせいか 差別ゆえの不公平のせいか 今回はわたしがあなたを殺すが 次回はきっと役割が逆だろう 儀式のクライマックスを見守る群衆を背にしながら あなたの 首に手をかけると この不条理が二人を驚くほど冷静にさせる この絶望まみれの連帯に もはやヒロイズムなど全く必要ない 誰にも責任をなすりつけることなく ただあなただけを見つめ 両手に力を込めると 背後の群衆は もはやどこかに消え去り 二人だけの歓びが 空間を垂直に分かち 同時に 水平に覆う あなたとわたしは 体に触れ合うことをもはや許されていない わたしたちの接触を許さない人たちは きっと 自らの不安が 収まるやいなや わたしたちのことなど 忘れてしまうだろう 二人の秘密の行為はなおも続く 若々しく潑剌としたあなたと わたしは スポットライトを一身に浴びつつ ダンスフロアの 中央に立つ チャビー・チェッカーの歌うLet’s Twist Againが 大音響で流れはじめると 二人は軽やかにツイストを踊りだす 「去年の夏のようにまた踊ろう 回って回ってアップ ダウン さあ もう一度」 体をくねらせながら 互いに近づくたびに 二人の間の遠さが身に染みる 両手を左右に激しく振りながら 離れ合うたびに 二人の間の近さがまざまざと痛感されていく 汗まみれの自分のこの姿を 夢の中で じっと眺めているのは 昏睡状態で横たわる 老いさらばえた 骸骨のごときわたしだ そしてそのすぐ隣では 老いさらばえた骸骨のごときあなたが 同じく昏睡状態のまま わたしの手をぎゅっと握っているのだ あなたとわたしは 体に触れ合うことをもはや許されていない それでも別に構わない 二人のこの秘密の行為に 終わりなど 全くないし たとえ全てが幻でも もう十分 幸せなのだから
by karansha
| 2021-04-20 16:45
| 編集長日記
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