■加藤典洋さんが撮ったパリ近郊の村

先日、加藤厚子さんより葉書のお便りをいただいた。私製葉書の裏面写真は、加藤典洋さんが2018年３月、パリ近郊の村で撮ったものとのこと。自筆年譜によると、３月10〜15日の間、パリに滞在されている。
加藤さんは写真が好きでよく撮っていたらしい。
『なんだなんだ、そうだったのか、早く言えよ。──ヴィジュアル論覚え書き』（五柳書院、1994年）という写真・映画・美術を論じた著書もある。自分だけで観ているのは勿体ない気がするので、ここに掲げさせていただこう。
まずは、2020年５月にやはり厚子さんよりいただいた葉書から。陽の射し方からすると、明け方だろうか。広々とした牧草地（かな？）の向こうに、海市（かいし）の如く町が浮かび上がる。バッハの『ブランデンブルク協奏曲』のように、これから何か胸躍ることが始まりそうで……。加藤さんはブリューゲルが好きで、いつか本を書きたいとも言われていたようだが、澄み切った空気感の中で事物が明瞭な輪郭を見せているところにどこかブリューゲル・ムードも感じられる。とりわけ空の大きさ、雲の賑やかさが心地いい。きっと加藤さんお気に入りの光景だったはず。

そして、この６月にいただいた葉書分。

上記写真と同じ日、同じ場所（地域）で、少し時間帯と方角が違うのかも知れない。
老木と思しき傾いた裸樹と雲の隙間から射し込む陽光。この光景にもバッハを当て嵌めるとしたら、『無伴奏チェロ組曲』、それもカザルス演奏がいい。

　　孤独になるには

　　　　　　　　　　　　　　　　　　加藤典洋

　孤独になるには

　旅に出るのがいちばん

　と国定忠治はいう

　でも

　どこにもいかないことも

　孤独だよ

　二人で一緒にいても

　孤独だよ

　ああ

　そんなことが

　あったなんて

　芝生の公園はどこまでも続き

　そこを僕たちは歩いていった

　孤独とは

　ふいに自分が

　もう世界の住人ではないと

　わかること

　山に登ると

　気分がいい

　と沓掛時次郎はいう

　でも

　何にもしないでいるのも

　気持ちがいいよ

　身体を草の上に横たえ

　空を見るんだ

　ああ

　そんなときが

　あったなんて

　振り返ると

　街には

　天気雨が降っている

　石畳がひかっている

　坂の向こうに

　赤い車が止まっている

　その傍らに

　青い道路標識

　坂道を

　僕たちは

　駆け下りていった

　笑いながら

　ねこじゃらしを振り回しながら

　スカートを揺らしながら

　帽子を手で押さえながら

　いくつも

　水たまりをとびこし

　いくつもの

　角を曲がり

　橋を過ぎて

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2018／12／20

「ああ／そんなことが／あったなんて」

「ああ／そんなときが／あったなんて」

加藤さんがこれだけ中原中也調をあからさまにしたことはないだろう。

　＊

加藤厚子さんからいただいたもう１枚、ブリューゲルの写真葉書（市販分）まで掲げておこう。

「雪中の狩人」1565年